東電の▲4,543億と関電の4,419億 — 電力決算は「どの箱で稼いだか」を見る
同じ業界で正反対の5年間。電力会社の中には性質の違う3つの事業が同居している
電力大手2社の純利益を並べます。同じ業界とは思えない動きをしています。
| 純利益(億円) | 22/3期 | 23/3期 | 24/3期 | 25/3期 | 26/3期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 東京電力HD | 29 | ▲1,236 | 2,678 | 1,613 | ▲4,543 |
| 関西電力 | 858 | 177 | 4,419 | 4,204 | 3,801 |
| J-POWER | 697 | 1,137 | 778 | 925 | 585 |
出典:各社有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」(EDINET、当サイト各企業ページの業績ハイライトと同一データ)
東電HDは5年で2回の最終赤字。関電は23/3期の177億円から翌期に4,419億円へ25倍のジャンプ。この差を理解する鍵は、電力会社の中には性質のまったく違う事業が3つ同居しているという構造です。
1. 3つの箱 — 発電・小売・送配電
2016年の全面自由化と2020年の発送電分離を経て、電力会社の事業は制度上3つに分かれています。
発電は市場と燃料に晒される事業です。燃料費が急騰すれば直撃を受け、原子力のように燃料費が小さい電源を動かせれば一転して強くなります。小売は競争領域で、家庭向けの料金には都市ガスと同様の燃料費調整制度(期ずれ)が働きます。そして送配電は、収入の上限を規制当局が事前に承認する「レベニューキャップ制度」(2023年度開始)の下にある規制事業で、市況にほぼ左右されません。
出典:電力の託送料金制度(レベニューキャップ制度) 電力・ガス取引監視等委員会
つまり電力会社の決算は、「市況の箱(発電・小売)」の暴れを「規制の箱(送配電)」の安定が下支えする構造です。冒頭の表の暴れ方は、市況の箱がどれだけ大きいか、そしてその中身が何かで決まっています。
2. 実データで答え合わせ — 明暗を分けたのは原子力
23/3期(2022年度)は、資源価格高騰が電力会社を直撃した年です。東電HDは▲1,236億円の赤字。燃料費調整には上限があり、高騰分を料金に転嫁しきれない構造的な問題が表面化しました。関電も177億円まで利益が痩せています。
24/3期の反転が、2社の構造差を露わにします。関電は4,419億円(ROE 21.8%)と過去最高水準へ跳ね、以後も4,000億円前後を維持。料金改定に加えて、燃料費のかからない原子力発電所の稼働が利益構造を根本から変えました。一方の東電HDは柏崎刈羽の再稼働が進まないまま、火力依存の構造で2,678億円→1,613億円と推移し、26/3期は特別損失の計上により▲4,543億円と再び大幅赤字に沈みました(詳細は同社の開示資料をご確認ください)。
ROEで見ると差はさらに鮮明です。関電が21.8%→15.7%→11.7%と高水準を保つ間、東電HDは0.1%→▲3.9%→8.1%→4.4%→▲12.7%。「電力株」とひと括りにすると、この2社が同じ箱に入ってしまうわけです。
J-POWER(電源開発)は第三の形で、小売をほぼ持たない卸発電の会社です。売上高が23/3期に1.84兆円へ膨らみ翌期に1.26兆円へ縮んでいるのは、卸電力市況の反映で、利益は585〜1,137億円と2社より振れ幅が小さい。どの箱をどの比率で持つかが、そのまま決算の性格になることがよく分かります。
3. 読みの作法 — セグメント開示で「箱」を分ける
電力会社の決算を読むときの実務的な作法は、全社の純利益ではなくセグメント別開示で送配電(規制)と発電・小売(市況)を分けて見ることです。送配電の利益が計画通りかは規制の話、発電・小売の振れは燃料と市場の話——原因の住所が違うので、対処も評価も別になります。
そのうえで各社の違いを見るなら、注目点は3つ。①原子力の稼働状況(燃料費構造を根本から変える)、②燃料費調整の期ずれの向き(直近の燃料市況と料金反映のラグ)、③送配電への投資計画(レベニューキャップの規制期間内でどれだけ投資を積むか)。この3点を押さえるだけで、「増益/減益」の見出しの意味がまるで違って見えるはずです。
原料価格の期ずれの仕組みは都市ガス編で詳しく解説しています。ガスと電力で同じ論理が働いているので、併せて読むと業界横断で理解が立体になります。
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